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インビクタス [イーストウッド]

イースドウッドの映画の中で今作ほど明朗なのは『スペースカウボーイ』以来ではないだろうか。とりわけ『ミスティックリバー』からというもの、一作一作が行き先の見えない暗闇の中を進んでくるかのようにイーストウッドの映画はスクリーンに映し出されていた。『グラントリノ』で自らを殺したことで、何か吹っ切れたとでもいうのだろうか。

そう、明朗な。あらゆるショットに笑みをこぼさずにはいられないほどに。しかし、いくつかの決定的なものを例外とすれば、お得意のギャグは抑制されていると言ってよい。例えば『ハートブレイクリッジ』のように、ここでもユニフォームが小道具としての役割を演じてはいるものの、それは明らかなギャグとして登場しているわけではない。だが、少年がユニフォームを拒絶するとき、またモーガン・フリーマンがキャップを受け取るときに込み上げてくる喜びは一体何だったのだろうか。

モーガン・フリーマンの素晴らしさは言うに及ばないと思う。早朝の散歩の歩きぶりを見ただけで魅了されない人はいないだろう。とはいえ、それもストーリーの展開からは想像できないほどに、目眩を呼ぶほどに緻密に織り上げられた作品の縦糸の一つに過ぎないだろう。身辺警護のスタッフたち、ユニフォームを拒んだ少年、女中、テレビリポーターなど、これらの横糸をイーストウッドほどに絶妙に組み込むことができる演出家が果たしているだろうか。

そしてこれほど巧みに織り上げられた映画の中に、それでもひとつの余白というか影を残しているところもまたイーストウッドならではである。それが何なのか言うことは差し控えておく。

 


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