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走る [本]

冬季オリンピックは明日からでしたかしら?
どこでやるのかすらよく知りませんが、この機に乗じて最近読んだ本から気に入った箇所を翻訳。主人公はヘルシンキオリンピックで長距離走三冠の偉業を達した男。

 そのときアメリカ軍に入隊したひとりのチェコ移民がしかし、彼を見つけるとお国の言葉をちょっと話す好機と捉えた。男はエミールのそばに座りに来て、しばし言葉を交わす。しまいに男が聞くには、んで、あんた、どの距離走りなさるんやね?エミールは、5キロっす、と小声で答える。何やって!、相手はたまげて叫んだ、あんた、ずいぶん前に5キロの人呼ばれとったで。三べんも読んどったわ。あそこ見てみ、みんなもう集まっとるやんか。
 エミールは息が詰まりそうになる、跳ね起きて、観覧席から飛び出し、脳が破壊されたスプリンターの足並みでスタジアムの対角線を突っ切る。走りながら上着を脱ぎはらい、そのために彼は一瞬目隠しされて顔面から転びそうになるのだが、手を振って叫び声を上げてスタートラインに集まった男たちの注意を引こうとする、幸運にも彼は間に合う。
 何やねん、こいつは?無愛想なお出迎えである。チ、チ、チミも走りたいのんか?んで、チミはどっから湧いて出て来たんや?リストに彼の名前を探すが、見つからない。前日彼の名前を記入するときに、14分25秒8というタイムにおそらく動揺した大尉が、スターター用のリストに訂正を加えるのを忘れたのだ。しかし、そこにいた何人かの外国人ランナーはエミールが走るとこをすでに見たことがあったのだが、こいつらが彼のことを覚えていて、請け合ってくれたおかげで、彼はようやく走ることが許可される。
 ま、ええて、スターターがぶーたれる、ええわ、そやけどチミ、んならここやで、後ろ、二列目のな、このコースやから。…
(Jean Echenoz, Courir, Minuit, 2008, pp. 44-45.)

 ヘルシンキオリンピックよりもずっと前のエミール・ザトペックでした。



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