菩薩なき世界 [映画]
先週に続いて地元の雷蔵特集。今回は『大菩薩峠』と『薄桜記』を見た。およそ15年ぶりだと思う。
まず『薄桜記』。見直してもいないくせにずっと大傑作と思い続けていて、実際クライマックスの片手片足になった雷蔵による俯瞰で撮られた雪上での立ち回りはやはり素晴らしい。ただ、雷蔵と勝新に愛されるヒロインを演じる女優が二人に拮抗するだけの力を持っていないのが残念。顔のインパクトは結構強い。しかし、最初にスクリーンに現れたときに、一度は見ているにも拘らず、まさかこの人がヒロインだったはずはない、と思ってしまうほど華がない。その人物に高田馬場の決闘で一躍娘衆の人気をかっさらい選り取り身取りな勝新が一目惚れしてしまうわけだが、そんな馬鹿なという思いが残ってしまう。どうやら新人女優さんだったらしい。
一方『大菩薩峠』は、雷蔵もさることながら玉緒のわけのわからない妖力によって支えられていたことを再発見。そういえば、これまで玉緒に注目して映画を見たという記憶はあまりなかったような。鮮明に記憶に残るのは、『眠狂四郎・炎情剣』のラストで雷蔵に斬られる玉緒だが、『大菩薩峠』でも玉緒は斬られる。両方とも三隅が監督しているわけで、三隅としては「斬られる女」として玉緒に魅力を見出したということだろうか(他の仕事は覚えていないけど)。むろん、斬られるまでの過程あって映える斬られ女であり、斬らなければどうしようもないことを示すことが肝要である。雷蔵=机に犯されて、そのことに勘付いた夫に玉緒が詰問されるシーン、最初は二人の顔を中心に切り返しで対話が進んでいたと思うが、最後に突如引きで部屋の全景が映し出される。そのとき、背景を占める障子に何か知らんが恐ろしく禍々しい絵が描かれている。もはや、単なる装飾ではない。玉緒の妖力で歪んだ世界に引きずり込まれたとしか考えられない。どんな絵が描かれているかは自分の目で確認してほしい。斬られるシーンのセットも尋常ではないが、それもここでは書かない。もっとも『大菩薩峠』の玉緒は、斬っても斬っても再登場するゾンビ女ではある。何でもかんでも斬らねば気が済まない雷蔵=机竜之介と、斬られても斬られても甦る玉緒。まったく恐ろしい物語だ。
死ぬまでには小説『大菩薩峠』も読んでおきたい。
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