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柳ケ瀬の雷蔵 [映画]

地元の歓楽街、といってもそれほど歓楽のあるわけでもない街になって既に長い年月が過ぎて、いまやその大半がシャッター街のありさまを見せているこの一角は、わたしが高校生だった頃はすでに廃れ始めていたのだけれど、地元で映画を見るにはここに来る他はなかった。全てロードショー館で、ミニシアター風の劇場も一時存在していたのだけど、やってる内容は同じだった。高校生ともなると誰しもアンゲロプロスとか見たくなってくるわけだが、そういう要求に応えてくれる街ではなかった。『ソナチネ』すらかからなかった。当時存在した映画館はほぼ全て老朽化や街の衰退に伴っていつしか消滅して、代わりにシネコンができた。ただ1館だけ名画座に変貌して存続を続けており、昨日十何年かぶりにそこに足を踏み入れた。

地方都市といえども、やはり名画座1館ぐらいはあってほしいものだ。 もちろんプログラムに大して期待できるわけではない。しかし、テレビやパソコンの画面だけでしか昔の映画を見られないというのはあまりに貧しい。件の名画座では先週末から雷蔵特集が始まった。ほとんど、もしくは全部昔見ている映画なのだけど、大映の時代劇を無性に見たくなる季節は不意にやって来る。

客層は、もちろんご老体たちによって占められている。平日の昼間である。街といい、映画館といい、世界の時間の流れとは切り離されている。こういう場に身を置くことは、犯罪者めいた、後ろめたい気持ちを否応なく喚起する。上映される映画だけが、時間を再び活性させてくれる。

設備は、お世辞にもよいとは言えない。とりわけ音響が酷い上に、婆様たちが寄合所か何かと勘違いしている。それも、致し方ない。久しぶりに見た『好色一代男』は、かつて見たときにもまして傑作であった。増村の作り出すショットの力はいったい何なのだろうか。絵的な見栄えの良さというのを無視しながら、有無を言わさない配置に全てがはまり込んで行く。雷蔵が坂を下りる女の足に縋りつくショットなど、見事としか言えない。もう一本の『眠狂四郎・勝負』については、シリーズ中の三隅監督作としてはもっとも記憶が薄れていた。しかし、狂四郎が将軍家の姫君に色仕掛けをされて、「この豚姫が!!」と罵るシーンでは、錆び付いた記憶の古層に電気が走った。

明日からは『薄桜記』と『大菩薩峠』がかかる。


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